奈良地方裁判所 平成9年(ワ)237号 判決 1999年1月22日
主文
一 被告らは原告に対し、連帯して金一三一五万〇九六七円及び内金一一六五万〇九六七円に対する平成九年四月一七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
四 この判決の第一項は仮に執行することができる。
理由
【事実及び理由】
第一 請求
被告らは原告に対し、連帯して金一三四五万〇九六七円及び内金一一六五万〇九六七円に対する平成九年四月一七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、証券会社の従業員から株式取引を勧誘され、右取引により損失を出した原告が、右勧誘には違法があったとしてその賠償を求めている事案である。
一 争いのない事実等
1 原告及び被告らの地位
(一) 原告は、昭和一一年一二月生の主婦である。
(二) 被告野村證券株式会社(以下「被告会社」という)は有価証券の売買等の証券業を営む株式会社、被告釜本隆史(以下「被告釜本」という)は、平成八年当時、被告会社奈良支店の従業員の地位にあった者である。平成八年一一月ころ、被告釜本は高松支店に転勤し、その後は浦田敏一が原告の担当社員となり、さらに平成九年三月下旬ころ、増山豊が浦田に代わってその担当社員となった。
2 原告と被告会社間の株式取引
原告は、被告会社梅田支店において、原告、長男一郎、長女春子の名義で取引を行っていたが、昭和六三年九月から平成元年九月までの間、原告名義で被告会社奈良支店において転換社債、株式等の取引を行った(もっとも、平成元年九月に購入したローゼンバーグUSジャパンBの売却は平成三年一〇月である)。そして、その後の平成五年三月から原告と一郎の名義で被告会社奈良支店での取引を再開した。被告会社奈良支店における原告の取引の状況は、別紙1、2記載のとおりである。
3 原告のマルコ株に関する取引
(一) マルコ株は、平成六年七月に店頭公開された後、平成八年六月四日に大阪証券取引所二部に新規上場された株式である。右上場に際し、被告会社は、その主幹事会社となった。
(二) 平成八年五月末ころ、被告釜本は、原告にマルコ株の購入を勧誘し、原告は、別紙1、2中のマルコ株に関する記載のとおり、同年六月四日、原告と一郎名義で各三〇〇株(単価九二五〇円、手数料込みの出捐額五六〇万六五九八円)のマルコ株を購入した。右の資金には、原告及び一郎名義のグローバルポートフォリオ(日本債券ブレンドファンド)の売却代金が充てられた。
(三) 同年七月初めころの被告釜本の勧めにより、原告は、森精機の転換社債を売却して、同月三日、一郎名義で六〇〇株(単価一万円、手数料込みの出捐額六〇五万六一三五円)のマルコ株を購入した。
(四) 同年一〇月にマルコ株の価格は下落し、同月一六日、一七日とストップ安が続いた。被告釜本は原告に平均単価を下げるようマルコ株の買い増しを勧め、原告は、同月二四日、一郎名義で二〇〇株(単価五二三〇円、手数料込みの出捐額一〇五万八二七一円)のマルコ株を購入した。右の資金には、積水化学の転換社債の売却代金が充てられた。
(五) 平成九年二月一〇日、原告は、マルコ株を売却しようとしたが、ストップ安のため、無償増資により取得していた原告名義の三〇株と一郎名義の九〇株の合計一二〇株(単価二〇五〇円、取得額二四万二三九五円)を売却したに止まった。同年四月一一日、原告は、残りのマルコ株一四〇〇株(単価六〇〇円、取得額八二万七六四二円)を売却し、同月一六日に八二万七六四二円の返還を受けた。
二 争点
1 被告釜本の勧誘行為における違法性の有無
2 原告の損害額
三 争点に関する当事者の主張
〔原告の主張〕
1 (一) 原告は、株式取引についてさしたる知識や経験がなく、被告釜本や被告会社の担当社員に対し、被告会社との取引の原資が亡夫の残した証券や預金であり、原告が年金生活を送っている実情を告げて、転換社債等その商品特性上堅実な商品のみを購入する意向を示していた。
(二) ところが、被告釜本は、マルコ株の上場に当たり上場日の高値買いをさせようとして、平成八年五月末ころ、原告に対し、マルコの業績の良いことを強調してマルコ株を勧誘し、原告が一旦は断ったのに、その一、二日後、マルコの業績の良いことを強調した上、三割の無償増資がある、一万三〇〇〇円まで上がるのでそのときに責任を持って売却する、絶対大丈夫であるとまで述べ、原告にマルコ株の購入を承諾させた。なお、被告釜本は、そのリスクについては一切言っていない。
(三) 同年七月初めころ、被告釜本は、森精機の転換社債につき約二七万円の損失を出しての売却を勧めた上、この損を取り戻すためと称してマルコ株の買い増しを勧誘した。この際にも、大丈夫かと念を押す原告に対し、被告釜本は、業績の良さや無償増資の予定、さらに、マルコ株は短期間で一万三〇〇〇円まで行く旨を再度強調した。
(四) 同年一〇月のマルコ株の価格の下落により、不安になった原告が被告釜本に助言を求めたところ、被告釜本は、平均単価を下げるようマルコ株の買い増しを勧めるとともに、下落は一時的なもので今が底値であり、これから必ず上昇すると断言した。
2 被告らの責任
(一) 被告釜本の責任
右の被告釜本の行為は、さしたる知識や経験がなく、堅い取引を求めていた原告に対し、投資信託や転換社債を売却させて、値動きが激しく、取引高も少ないためリスクが高く、投資判断の難度も高い、新規上場されたばかりで実績もない二部銘柄の取引を勧誘した点において、適合性の原則に違反する。また、断定的判断の提供を禁止した証券取引法五〇条一項一号にも違反する。被告釜本の行為は、社会的相当性を逸脱し、不法行為を構成するものである。
(二) 被告会社の責任
被告釜本は、被告会社の事業の執行につき前記の勧誘を行ったのであるから、被告会社は、被告釜本の使用者として原告の損害を賠償する責任がある。また、被告会社は善管注意義務を負うところ、その履行補助者である被告釜本の前記の勧誘は右義務に違反するから、被告会社は債務不履行責任を免れない。
3 原告の損害
(一) 原告は、本件マルコ株の取引のため合計一二七二万一〇〇四円を出捐し、一〇七万〇〇三七円を取得しているから、原告は、一一六五万〇九六七円の損害を被った。
(二) 弁護士費用 一八〇万円
4 結論
よって、原告は、被告らに対し、損害賠償として各自一三四五万〇九六七円とこれから弁護士費用を除いた一一六五万〇九六七円に対する不法行為後である平成九年四月一七日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
〔被告らの主張〕
1 (一) 被告釜本を含む被告会社の担当社員は、原告から、転換社債等その商品の特性上安全堅実な商品のみを購入する意向を明示されていたことはない。原告は、三〇年以上の証券取引経験及び一〇年以上の株式取引経験を有し、十分な知識と情報収集能力があったのだから、投資判断能力を十分に保有していた。
(二) 被告釜本は、原告が転換社債や外債のうちから利回りの良いものを選択して購入していたため、原告は株式の取引はしないのだろうと想像して、原告には株式の取引を勧めていなかった。しかし、平成七年一二月になって、原告から「梅田支店でパラマウントベッドの株式を勧められて買っている」と言われ、被告釜本は原告が株の売買もしていることを初めて知り、原告に対して「そうでしたら、奈良支店のほうでも株式を始めて下さい」と申し出たところ、原告から「もし本当にいいのがあれば、教えてほしい」と言われた。そこで被告釜本は、平成八年一月に教育総研の株式を勧めたが、購入には至らなかった。
被告釜本は、同年三月、原告に対し、ビクトリア州二重通貨債から当時大阪証券取引所二部に新規上場になったタイカン株への乗換えを勧めたところ、原告はこれを受けて、ビクトリア州二重通貨債を売却してタイカン株を五〇〇〇株購入した。これが、奈良支店における原告の取引再開後の初めての株式の取引である。
(三) 被告釜本は、平成八年五月末ころ、原告に電話でマルコ株の上場日買い付けを勧めた。その際、被告釜本は、マルコ株が六月四日付けで二部に上場されること、マルコは、奈良の橿原に本社を構える地元の企業であること、女性用の体型補正下着を扱う会社で、全国に約三〇〇店ほどある直営店で販売しており、主に若い女性の口コミによって顧客層を増やしていること、株主還元にも積極的で過去二回にわたり三割の株式分割をしていることなどを説明した。
原告は、右説明を聞き、少し考慮した後、マルコ株の上場日である六月四日に買い付けることを承諾し、同日、その買い付けのために、日本債券ブレンドファンドを売却した。
(四) 同年七月になって、森精機の転換社債の値動きが芳しくなかったのに対し、マルコ株は上場後も株価が一万円まで上昇しており、さらに上昇期待があると思われたので、被告釜本は原告に対し、森精機の転換社債からマルコ株への乗換えを勧め、原告は、一郎名義でマルコ株六〇〇株を購入した。
(五) その後、同年八月から一〇月にかけてマルコ株は予想に反して値下がりし、一〇月一六日、一七日には一〇〇〇円のストップ安が続き、株価が五〇〇〇円台になったとき、被告釜本は原告に電話して、株価の状況を報告するとともにレーティングが下がったことも伝えた上で、業績から判断すれば売られ過ぎと思われること、戻りが期待できるのではないかと説明し、買い付けの平均単価を下げるため、値動きの芳しくなかった積水化学の転換社債からマルコ株への乗換えを勧めた。これにより、原告はマルコ株二〇〇株を買い増した。
2 原告の主張2は争う。原告の投資判断能力からすれば、マルコ株の勧誘が適合性の原則に反することはないし、被告釜本が原告に対して、断定的判断を提供したこともない。
3 原告の主張3は争う。原告の原資は一郎及び二女夏子の財産であり、原告はその管理を委託されていたに過ぎないから、マルコ株の取引による損失は一郎及び夏子に帰属し、原告に損失はない。
第三 証拠関係《略》
第四 当裁判所の判断
一 《証拠略》によれば、次の事実が認められる。
1 原告の学歴は高卒であり、職歴は亡夫の経営していた会社で雑役的な事務職についた程度である。原告は、昭和三六年に結婚した後、被告会社京橋支店で、それほど多額ではないが余裕の出た金額で貯蓄的に社債投信を買っていた。被告会社京橋支店が閉鎖された後、原告は被告会社の梅田支店と昭和五六年ころから取引をし、社債投信がある程度の金額になると被告会社の担当者の勧めるままに株式を買ったりしていた。もっとも、被告会社の担当者からの強い勧誘による二、三の例外を除き、原告の取引は利回りを重視する堅実な商品のみに限られていた。
2 原告は、昭和六二年に夫と死別した後、亡夫の遺産である会社の株式等を換金したうちの約一九〇〇万円を原資として、平成五年三月二日、被告会社奈良支店に赴き、取引を再開した。なお、争いのない事実等2記載のとおり、原告は、平成元年一〇月以降このときまで転換社債や株式を購入していない。
被告会社奈良支店では投資相談課長の橋本圭司が当初原告に応対したが、橋本は原告に被告釜本を引き合わせ、以後被告釜本が原告の取引の担当者となった。この際、原告は、橋本や被告釜本に対し、年金生活を送っていることや原資の性質が子らに分けるべきものであることなどを告げて、損するわけにはいかないので堅いものにしてほしいとの意向を伝えていた。被告釜本は、原告から取引の原資が減らすわけにはいかない大事なお金だとは聞いたことがないと供述するが、右供述部分は甲七に照らして採用できない。
平成五年三月二日には、原告は、金貯蓄(長期国債ファンドへの買換目的)、近鉄の社債、長期国債ファンドを購入することにしたが、その後一年六か月ほどは買い付けをしていない。平成六年九月以後、原告は、被告会社奈良支店で若干の取引をするようになった。しかし、その取引は、原告が被告会社梅田支店から勧誘を受けた後同奈良支店の勧誘をも受けて外債の説明会に出席した上、自ら希望して購入したオーストラリア国債以外は、すべて被告釜本の勧誘によるもので、その対象はいずれも利回りを狙う貯蓄性の強い商品であった。
3 被告釜本は、原告が株式取引をしないと思っていたところ、平成七年末ないし翌八年の初めころ、原告が被告会社梅田支店で時折株式取引を行っていることに気づき、奈良支店でも株式取引をしてくれるよう勧誘を行った。しかし、原告は特に明確な理由を告げずにこれに応じないことが多く、被告釜本の熱心な勧めで平成八年三月に大阪証券取引所二部上場のタイカン株を原告の名義で購入し、同年四月に右タイカン株を売却して同一部上場の日成ビルド株を購入したに止まった。
4 平成八年五月末ころ、被告釜本は、電話で原告にマルコ株の購入を勧誘した。その際、被告釜本は、マルコ株が大阪証券取引所二部に新規上場されること、マルコが奈良県の地元の下着を扱う会社であり、その業績が非常に良いことなどを原告に告げたが、原告は、マルコという会社を全く知らず、亡夫がもとアパレル会社を経営し、一郎もアパレル会社に勤務していてその業界の先行きに不安を感じていたため、その旨を述べて被告釜本の勧誘に応じることをためらっていた。
これに対し、被告釜本は、当該の電話あるいは二度目の電話で、マルコ株につき、一万三〇〇〇円ぐらいになるのでそのときに手放すから思い切って買ってはどうか、絶対大丈夫である。責任を持つ、三割の無償増資があるなどと述べたため、原告は、被告釜本を信頼してその勧誘に応じることにした。同年六月三日、被告釜本は原告に対し、さらに電話でマルコ株を一株九五〇〇円までで注文してはどうかと勧め、原告はこれにも応じることとして、結局、原告は、同月四日、原告と一郎名義で単価九二五〇円のマルコ株を各三〇〇株購入した。なお、被告釜本は、右の勧誘に際して、そのリスクについては一切言及していない。
被告釜本は、その陳述書中では、原告にマルコ株を最初に勧めたときに無償増資があると述べたと記載しながら、マルコ株の無償増資がこの時点では公表されていなかったことを理由に、無償増資があると述べたのは七月初めの時点であるとその供述中でこれを訂正する。しかし、主幹事会社が無償増資の予定を公表前に知り得ることを考えると、被告釜本が訂正した供述を採用することはできない。
5 平成八年七月初め、マルコ株は一時的に価格が上昇してその高値が一万円台になったところ、被告釜本は原告に対し、電話で森精機の転換社債に損が出ているのでこれを売却し、マルコ株を買い増して損を取り戻そうと勧誘した。その際、被告釜本は、マルコの業績の良さや三割の無償増資の予定があることのほか、マルコ株が短期間で一万三〇〇〇円まで行くであろうことを強調した。原告は、これに応じて森精機の転換社債を売却し、同月三日、一郎名義で単価一万円のマルコ株を六〇〇株購入した。
6 その後の同年一〇月一五日、マルコは八月期の決算を発表したが、経常利益が予想を下回ったため、マルコ株は下落してストップ安を続け、野村総合研究所などの研究所はそろってマルコ株の格付けを下げた。
そこで、原告は心配して被告釜本に電話したところ、被告釜本は原告に対し、今が一番底でこれから必ず上昇するからマルコ株を買い増して単価が平均して安くなるようにしてはどうかと勧め、原告は、同月二四日、一郎名義で単価五二三〇円のマルコ株を二〇〇株購入した。右の資金には、被告釜本の勧めで売却した積水化学の転換社債の代金が充てられた。
被告釜本は「底」というような言葉は使わないと供述し、その旨の陳述書を提出するが、右供述部分は甲七に照らして採用できない。
7 大阪証券取引所二部銘柄は、会社の規模、発行株式の数、市場の規模、取引高などが小さく、同一部上場銘柄に比べ価格が不安定で値動きが激しいという特性を有していた。マルコも地方の小規模の、知名度の低い企業であった。被告はマルコの主幹事会社として、マルコと打ち合わせて上場の準備を進め、被告会社奈良支店は、被告釜本の在任中に被告会社が他に奈良の企業の主幹事会社になった例もなかったことなどから、特に力を入れて準備に加わっていた。そして、被告釜本は、マルコ株の上場に当たって原告を含め一二件ほどの買い付けの注文を得ている。
平成八年五月三一日のマルコ株の店頭市場での価格は高値九二〇〇円、安値九一三〇円、終値は前日比三〇円安の九二〇〇円であり、同年六月三日のそれは、高値九二〇〇円、安値九一〇〇円、終値は前日比五〇円安の九一五〇円であった。また、同月四日の上場日のマルコ株の価格は、高値九二五〇円、安値九〇五〇円、終値は九〇五〇円であった。
二 右一で認定した事実関係の下で考えるに、以下に述べるとおり、被告釜本の勧誘行為は違法なもので被告らはその責任を免れない。
1 証券会社である被告会社は、証券業務に関し豊富な専門的知識及び経験を蓄積し、かつ、豊富な情報を有しているのに対比して、原告は、一般の投資者であり、その間には大きな格差がある。このような証券会社が、投資者に取引を勧誘するにあたっては、顧客に対し、誠実かつ公正にその業務を遂行しなければならない(証券取引法四九条参照)。
もとより、証券取引には、価格変動がつきものであり、投資者自身においてこれを良く理解した上で、自らの判断と責任において取引を行うべきものである(いわゆる自己責任の原則)が、投資者が自らの判断と責任において取引を行うには、証券会社において顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行ってはならない(証券取引法五四条参照)のであり、また、自己責任の原則を損ねるような断定的判断が提供されてはならないのである。
2 前認定の事実関係に照らせば、原告は、原資の性質に裏付けられた堅実な投資意向を被告会社の担当者に明示していた一方で、株式取引について十分な知識、経験、情報収集手段を有していたとは認め難く、格別の判断能力を有していたわけでもない。また、マルコ株が転換社債や投資信託との比較においては勿論、一部上場の大型株と比べても、投機性が高い商品であることは明らかである。
ところが、被告釜本は、マルコ株が大阪証券取引所二部に新規上場されるにあたり、その主幹事会社となった被告会社の社員として、原告の意向に沿う商品である投資信託や転換社債を売却するよう勧めるとともに、その代金によりマルコ株の購入を勧誘したものである。被告釜本の原告に対する勧誘の態様は、すべて電話によるもので、資料の交付もなく、マルコの業績が良いことや一万三〇〇〇円ぐらいになるのでそのときに手放すから思い切って買ってはどうか、絶対大丈夫である、責任を持つ、三割の無償増資があるなど、マルコ株の有利性のみを強調したリスクの告知のないものであった。そして、価格下落時の買い増しの際には、今が一番底でこれから必ず上昇するというような言葉も使われている。そのため、原告は、新規上場時、価格上昇時、価格下落時の各局面でマルコ株を購入することになっているのである。
してみると、被告釜本の原告に対するマルコ株の勧誘は、いわゆる適合性の原則に反し、かつ、断定的判断を提供したものとして、違法であるというほかはない。
被告釜本は、会社四季報や被告会社の関連会社である野村総合研究所のレポートによりマルコ株の価格が上昇するとの判断に至った旨弁解するが、そのような事情は、被告釜本の勧誘の違法性を左右するものではない。
3 結局、被告釜本の原告に対するマルコ株の勧誘は社会的相当性を欠き、違法なものであって不法行為を構成する。
そして、被告会社は、被告釜本の使用者として、被告釜本がその職務であるマルコ株の勧誘により原告に加えた損害を賠償すべき義務がある。
三 損害について
1 争いのない事実等3記載の事実によれば、原告はマルコ株の取引自体からその主張の一一六五万〇九六七円の損害を被ったというべきである。
被告らは、原告の株式取引の原資は一郎及び夏子の財産であり、原告はその管理を委託されていたに過ぎないから、その損失は一郎及び夏子に帰属し、原告に損失はないと主張する。しかし、被告会社との取引主体が原告であることは当事者間に争いがない上、仮に原告が一郎及び夏子の財産の管理を委託されていたとしても、原告は一郎及び夏子に対してその委託された財産を返還すべき義務を負うものであるから、原告が原告及び一郎名義で行ったマルコ株の取引について損失が生じた以上、これを原告の損害として評価することができる。
2 弁護士費用
被告らに負担せしめるべき弁護士費用の額としては一五〇万円が相当である。
第五 結論
以上の次第で、原告の請求は、一三一五万〇九六七円とこれから弁護士費用一五〇万円を控除した内金一一六五万〇九六七円に対する不法行為日の後である平成九年四月一七日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
よって、主文のとおり判決する。(訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条、六五条を、仮執行宣言につき同法二五九条を各適用)
〔口頭弁論終結日・平成一〇年一一月二〇日〕
(裁判官 前川鉄郎)